てらネットEN(全青協共催)では、京都・キャンパスプラザ京都を会場として「不登校・ひきこもりを考える公開シンポジウム」を開催しました。このシンポジウムは、東京で開催した「てらネットEN設立記念シンポジウム」が反響を呼んだことを受け、当ネットワークの活動を関西方面でもご紹介するために、仏教各宗派の本山が多くある京都での開催となりました。またこの機会に、てらネットENへの加盟寺院を新たに発掘し、ネットワークの拡充を図りたいという意図もありました。
会場には各宗派からの参加者や、現場で活躍中の教育者、当事者の親などが100名近く参加し、東京での開催同様不登校やひきこもり問題の深刻さと関心の高さをあらためて知る機会となりました。
シンポジウム詳細
シンポジウム日時 2005年11月29日(火) 13:30〜17:30
会場 キャンパスプラザ京都 4階第2講義室
住所 京都市下京区西洞院通塩小路下る
第一部 不登校・ひきこもりを考える公開シンポジウム<13:30〜17:00>
・ 基調講演「不登校・ひきこもりの現状とその対応」
尾木直樹氏(教育評論家・法政大学教授)
・ パネルディスカッション「第三者および地域社会による支援のあり方」
藤代寿樹氏(元当事者・全国ひきこもりKHJ親の会本部スタッフ/埼玉県)
野田大燈師(報四恩精舎・社会福祉法人四恩の里/香川県)
添田隆昭師(高野山高校校長/和歌山県)
藤 大慶師(るんびに苑/京都府)
神 仁(てらネットEN事務局・全青協主幹/東京都)
第二部 プレゼンテーション<17:00〜17:30>
・ ネットワーク参加寺院紹介
・ ネットワーク活動紹介
第三部 交流会(立食形式)<18:00〜19:30>
・キャンパスプラザ京都 2階ホールにて
主催
・ てらネットEN−全国不登校・ひきこもり対応寺院ネットワーク‐
・(財)全国青少年教化協議会
後援
・財団法人大学コンソーシアム京都
◇ 不登校・ひきこもりの現状と課題
シンポジウムは2部構成で進められ、第1部は教育評論家の尾木直樹さんによる基調講演です。
尾木さんはまず、最近ひきこもりという言葉が聞かれなくなったことにふれ、「ニートという言葉が氾濫し、ひきこもりをその枠にはめてしまった。これは危険なことです。基本的にニートとひきこもりは違います。ニート一本やりではなく、共通点を見ながらも、相対的違いを明らかにして、ひきこもりへの明確な支援策を確立してほしい」と話し、ニートに傾く最近の社会の関心や行政支援のあり方に警鐘を鳴らしました。
そして、その支援には元当事者や、彼らの気持ちが理解できる若い人たちの協力が不可欠と話し、大人としては若者たちが自由に使える居場所作り等の後方支援が重要との考えを述べました。
不登校やひきこもりが起こる背景として「この問題の今日的特徴は、子どもや青年にとって、発達不全が起こる社会になってきたということです」と述べ、若者だけでなく、今日の社会を作ってきた大人の側にも責任があるのではと指摘しました。
また、不登校・ひきこもりへの向き合い方としては「まず大切なのは、子どもを責めない、ありのままを認めていこうという姿勢が大事だと思います。部屋が汚い、日中に起きてこない昼夜逆転があったとしても、思考を変えて、前向きにとらえるよう心がけましょう。あわてず、あせらず、あきらめずの姿勢を大切にしていきたいですね」と家族に対してアドヴァイスを送りました。そして、自分の育て方に問題があったのではと悩む親に対しては「自分自身をも許せる心を養い、夢をもって生きていくことがいいと思います」と話し、親がひきこもらないで外に向いて接点をもつことの重要性を話し、基調講演を閉じました。
◇ てらネットENの活動
第2部は活動内容についてのプレゼンテーションです。てらネットEN設立を呼びかけた全青協主幹の神仁より、スライドを使ったプレゼンテーションが行われました。てらネットENの主な活動は次の通りです。
■不登校やひきこもりで悩む青少年やその家族に対して、専門の相談窓口を開設し当事者や家族の要望・状況を考慮したうえで、ネットワーク参加寺院や団体への紹介とそのサポートを行う。
■リーフレット(小冊子)の配布やウェブサイトを通じて、当事者や家族への情報提供を行っていく。
不登校やひきこもりに関する一般向けのセミナーや僧侶向けの研修会を開催する。
ネットワーク参加の寺院団体の紹介では、現在13寺院と4団体、精神科医や臨床心理士、弁護士などの専門家(顧問)の協力がありますが、さらに、寺院(愛媛県・神奈川県)のネットワーク参加が公表され、今後の課題としては、どんな地域でも対応できるネットワーク体制を目指していくことを説明しました。
◇ パネルディスカッション
活動紹介に続いてパネルディスカッションが行われました。パネラーはネットワーク参加寺院代表として野田大燈さん(香川・喝破道場)、藤大慶さん(京都・るんびに学園)、添田隆昭さん(和歌山・高野山高校)と、元当事者で現在は自助グループの運営などに携わっている藤代寿樹さん(KHJ親の会本部スタッフ)が登壇し、コーディネーターを全青協の神が務めました。
野田さんは「禅寺という環境を活かし、集団生活を通じて何人もの若者たちが元気になっていく姿を見てきた」と語り、生活改善により心の力がついてくることについて実感として話しました。また「若い人たちへの接し方として、叱咤激励で良くなっていった時代から変わってきました」と話し、最近の若者たちは「ガラスのように壊れやすい」と従来の教育方針では対応が難しいとの感想を述べました。
藤さんは「自分が若い頃に経験してきた葛藤や悩みがきっと今の若い人たちにも通じるだろうと若者たちの相談にのったら、彼らが元気になっていったことが嬉しかった」と話し、お寺で悩み相談を始めたのがきっかけで、情緒障害児短期治療施設の設置に結びついた経験を話しました。
添田さんは「自坊で預かった不登校の子どもとの生活を通じて、さまざまな能力をもった豊かな子どもが多かった」と話し、「繊細で責任感の強い子が不登校になったケースが多いが、その個性をどう伸ばしていってあげるかを大切にして取り組みたい」と語りました。
元当事者の藤代さんは、自らがひきこもった原因として「学校のいじめや、身内の不幸がきっかけで強迫神経症となりひきこもりました」とつらい経験を話しました。立ち直るきっかけとしては「学校の悩み相談室に通うようになって、そこで同じような悩みをもった人がいるということを知り、接していくうちに立ち直っていったのです」と語り、人との接点が重要であると話しました。続いて各パネラーからの事例報告がありました。各パネラーともさまざまな若者たちとともに歩んできただけあって、重みのある体験談を披露していただきました。中には関わっていた若者が自殺をしてしまったなどの例もあり、若者たちへの支援の難しさも考えるきっかけとなりました。
質疑応答では、当事者をもつ親から「息子がひきこもっています。お寺のようなゆったりした空間で、生活体験できれば自立に向かっていくのではと考えております」との質問に対し、パネラーの野田さんから「大事なのは、息子さん本人の気持ちがどうなのかということです。本当に変わりたいと考えているのかどうか。それから、お寺はけっしてゆったりとした場所ではありません。修行の場ですし、人を変えていく場所なのです。厳しい面もあるのですよ」との回答がありました。けっして突き放した訳ではなく、当事者の気持ちがまず第一であり、その家族も一緒に取り組み互いに成長していくという気持ちを持つことが大切なことですよと諭すように話していたのが印象に残りました。
◇ 今後の展開
今後てらネットENでは、今の社会に対して、こうした深刻な現状を訴え、社会全体で一丸となって取り組むべき問題であるということを広く訴えていくため、積極的にシンポジウム・セミナーなどを開催したいと思います。また、全国からの相談に対応するために、相談窓口のフリーダイヤル化をすすめ、お寺での電話相談窓口(てらフォン)の設置を推進していくために、広く呼びかけていく予定です。いつの日かこのような相談がなくなることを願ってやみません。(総)(ぴっぱら2006年1月号より)